犬も人と同じように年を取りますが、そのスピードは私たちよりもずっと早く、晩年になるとさらに加速しているように感じることもあります。少しでも長く愛犬と暮らしたいと思うのは当然ですよね。
一方で、高齢犬との生活は決して簡単ではありません。今、若い犬を飼っている方も、いつかはその日が来ることを見据えて準備を始めることが大切です。しかし、高齢犬との生活には大変さだけでなく、飼い主の活力や張り合いになる一面もあります。
ポジティブな視点を持ち、悲観することなく「愛犬と一緒に過ごす幸せな老後」を実現するために、今からできることを一緒に考えていきましょう。
楽しく幸せな高齢犬との生活を送る秘訣
高齢犬との暮らしに必要な「良い意味での手抜き」
高齢犬との生活には、ある程度の「手抜き」が必要です。もちろん、節度は大切ですが、あまりに頑張りすぎて疲れ切ってしまうと、お互いの生活が辛くなってしまいます。飼い主が心穏やかに過ごし、幼いころから築いてきた愛犬との信頼関係を大切にしましょう。
愛犬の年齢に合った運動量や食事、そして安心して暮らせる環境を整え、転倒や衝突による怪我を防ぐ配慮も欠かせません。さらに、愛犬には積極的に声をかけたり、撫でたりして心のケアを忘れないことが重要です。
世話に「手を抜いてはいけない」と無理に思い込まず、獣医や家族、友人にも頼れるような環境を整えておくこともポイントです。これにより、飼い主も愛犬も快適で楽しい生活を送ることができるのです。
「一緒にいられる時間が限られているからこそ、良い意味での手抜きをしましょう。」子犬期には厳格なルールを設けていたかもしれませんが、年齢に合わせてルールを緩め、心と体の「バリアフリー化」を意識してあげましょう。今ではいたずらも少なくなり、愛犬も飼い主もよりリラックスして過ごせます。若いころの一貫したしつけは大切ですが、年齢を重ねてきたら、少しずつルールを緩めていくことで、お互いストレスのない生活を目指していきましょう。
老犬との楽しく幸せな生活を作る
残念ながら、犬の一生は人よりも短いものです。小型犬の寿命は平均して15歳前後で、10~11歳頃から高齢期を迎えます。大型犬の寿命は10歳前後で、6~7歳から高齢犬とされます。
私自身、チワワを迎える前は、超大型犬を約50匹ほど飼育してきました。しかし、9歳まで生きた犬はほとんどおらず、早い子では5歳頃から口の周りに白髪が目立ちはじめていました。このように、犬の寿命は人に比べて非常に短いのです。
そのため、高齢期に入った愛犬の飼い主は、特に体と心のケアに気を配ることが大切です。新しいことを学ばせるのは難しいこともありますが、若いころから将来を見据えて習慣づけておくと、年齢を重ねたときにも無理なく生活できるようになります。
例えば、若い頃は簡単にジャンプしていた場所も、将来的にはステップやスロープを設けることで上りやすくしてあげましょう。家具の配置は家庭ごとに異なるため、高齢になる前に、補助用具を準備したり、高い場所に登れないようにするなどの工夫が必要です。
これまで守らせてきたルールも、高齢犬に合わせて柔軟に変えていくことが愛犬の幸せにつながります。足腰が弱くなってきたら、寝られる場所を複数用意し、好きな場所で休めるようにすることや、以前は禁じていたことも許してあげるのも一つの愛情です。
こうしたルールの緩和は、愛犬にとって特別な喜びとなり、幸せを感じてもらえることでしょう。
愛犬に声を掛けて会話をする
犬にとって苦手なケアでも、飼い主の声がけで励まされると、我慢できるようになります。信頼する人の声を聞くだけで、犬には安心感が生まれ、不安が和らぐのです。
例えば、爪切りや耳掃除を嫌がる犬も多いでしょう。中には逃げ出そうとする子もいます。そこで、事前に声をかけたり、道具を見せたりして、犬に心の準備をさせると良いでしょう。
少し渋々でも我慢できたら、しっかり褒めてあげましょう。その後に、お気に入りのおやつをあげることで、より満足感を得て、次のケアも少しずつ楽に感じるようになります。
排泄も言葉で伝えてできるようにコントロールすると便利です。
子犬のころから排泄時に「ワンツー」(コマンドはお好みで変更可能です)と声をかけ、排泄行動とコマンドを関連づけることで、条件反射的に排泄できるようになります。コマンドで排泄してくれると、必要なときや場所で排泄させられるためとても便利です。
例えば、長時間の外出や遠出の際、出発前に排泄を済ませておけば、数時間安心して移動できます。また、将来的に介護が必要になった際も、排泄をコントロールできると、飼い主にとっても大きな負担軽減になります。
災害などで避難が必要な状況でも、どこでもコマンドで排泄してくれると非常に役立ちます。日常からコマンドを使っておくことで、いざという時にも安心です。
ハンドシグナルを教える
ハンドシグナルとは、手の動きで犬に指示を伝える方法です。犬への指示には「声府(せいふ)」と「視府(しふ)」の2種類があり、特に手での指示を「ハンドシグナル」と呼びます。実は、手招きの意味を理解できるのは、人と犬だけと言われています。犬は教えなくても、手招きが「来い」という指示だと自然に理解できるのです。
ハンドシグナルは、声を出せない状況でも役立つため、普段からいろいろなパターンを教えておくと便利です。まずは「声府」で指示を覚えさせ、次にハンドシグナルも加えて、声と手の動きを合わせて指示を出すと良いでしょう。
たとえば、「オスワリ」と声で指示を出すと同時に、ハンドシグナルで動作を示します。犬が座ったら、しっかりと褒めてあげることで学習が進みます。繰り返していくうちに、犬は指示を覚え、老犬になって耳が遠くなっても、ハンドシグナルで指示やコミュニケーションが取れるようになります。
高齢犬との暮らしのなかで気をつけるべきポイント
体作り【運動・食事】
高齢になると、若いころに比べて動きが鈍くなり、運動量が減るため太りやすくなります。散歩に行きたがらなくなったり、動作が緩慢になったりと、愛犬のさまざまな変化に気づくかもしれません。
体重が増えると、関節痛をはじめとしたさまざまな病気のリスクが高まるため、定期的な健康診断が重要になります。運動や食事にも注意を払いましょう。激しい運動は避けつつも、まったく運動しないのも筋力低下を招き、老化を早めてしまいます。
愛犬が一日でも長く自分の足で歩けるよう、タンパク質を多めにし、カロリーが調整されたシニア向けドッグフードに切り替えるのも良い方法です。適度な運動で体を動かし、脳に刺激を与えることを習慣にしましょう。
また、病気によって食べられないものが出てくる場合もあるため、食事内容は獣医師と相談し、愛犬に合った栄養管理を心がけてください。
寝ている時間が増えてきても飼い主との時間は確保しましょう
犬にとって、飼い主との関係、散歩、そして食事は三大楽しみといえるでしょう。しかし、年を取ると体力が落ち、散歩がつらくなったり、食べ物に制限が出たりと、楽しみが少しずつ減ってきます。
その分、別の楽しみで補ってあげることが大切です。散歩が減ったなら、頭を使うゲームを取り入れたり、グルーミングをしながらのんびり過ごす時間を作るのも良いでしょう。
愛犬が寝ている時は、そっとしておき、ゆっくり休ませてあげることも心地よい生活の一部です。
危険な場所をなくして安心・安全な環境作り
高齢の愛犬には、危険なものを排除して安心・安全な環境を整えることが大切です。年齢を重ねると、今までできていたことが難しくなり、体への負担も増えてきます。愛犬が快適に、そして安全に過ごせるよう、ケガのリスクが少ない環境を作りましょう。
特に、トイレ・寝る場所・食事場所は重要です。例えば、トイレが遠い場所にあったり段差がある場合は、バリアフリー化して使いやすくしましょう。トイレの数を増やして、どこにいてもすぐに行けるようにするのも効果的です。
床材は滑りにくいものを選び、足腰への負担を軽減しましょう。また、寝る場所は天候や気温に応じて愛犬が選べるように、ベッドの材質や設置場所を変えて複数用意すると喜ばれます。
食事環境も配慮が必要です。無理のない姿勢で食べられるよう、食器の高さや器の深さに気を配りましょう。無理な姿勢は体に負担をかける原因になります。
認知症の症状で家具の隙間に入り込んでしまう場合や、階段や段差で転倒するリスクがある場合は、サークルやフェンスで行動範囲を制限することも考えましょう。また、視力や聴力が低下してくると不安も大きくなるため、場所が分かりやすいようにし、飼い主が不在でも安心して過ごせる環境を整えてください。
危険なものは排除して安心・安全な環境を確保しましょう。
愛犬と飼い主のお互いが快適なお世話の仕方を考える
愛犬が1日1日を楽しく心豊かに過ごせるように
高齢になると、犬も認知症や治療が難しい病気にかかることが増えます。こうした状態と長く付き合っていくためには、できるだけ快適に過ごせるよう、さまざまな工夫が必要です。
痛みが強いときには、薬で症状を緩和してあげましょう。薬の使いすぎを心配する方もいますが、晩年には薬に頼って楽に過ごせる方法を選ぶことが大切です。薬を控えることで、かえって愛犬が苦しむことになりかねません。
また、食欲が低下してきた場合は、さまざまな種類や質にこだわるよりも、食べられるものを無理なく与えることを優先しましょう。飼い主によって考え方はさまざまかもしれませんが、その日一日を少しでも快適に過ごせるようにする選択を大切にしていきたいものです。
介護をする飼い主が笑顔でいられるようにしましょう
介護というとつい「受ける側」ばかりが重視されがちですが、「介護をする側」の負担にも目を向けましょう。飼い主は、愛犬が弱っていく姿を見るたびに「自分が頑張らなくては」と思いがちです。しかし、自分一人で背負おうとすると、次第に心身の負担が大きくなってしまいます。
たとえば、排泄の失敗が増えてきたとき、「オムツなんて可哀そう」と感じるかもしれませんが、積極的に活用するのもひとつの方法です。粗相するたびに掃除をしたり、汚れた愛犬を浴室で洗うことは、かえってお互いに負担が増してしまいます。
今は介護用品も数多く揃っており、便利な道具を上手に使って負担を減らすことが大切です。「どうすれば楽に介護ができるか」「どうすれば愛犬の負担を軽減できるか」を工夫し、快適に介護を続けるための環境づくりを考えていきましょう。
サポート体制を整えておく
困ったときに愛犬を預けられるところを確保しておく
飼い主である前に、一人の人間として日々の生活があり、愛犬に常に付き添えない日もあるでしょう。そのような時に備え、サポート体制を整えておくことが大切です。安心して愛犬を預けられる場所を、あらかじめ数か所見つけておくことで、飼い主の精神的・肉体的負担が軽減されます。
若いうちから知人などに頼んで、他人の家やペットホテルなどに預ける練習をし、愛犬が飼い主と離れて過ごすことに慣れておくとスムーズです。預け先の候補として、実家、知人宅、犬仲間、動物病院、ペットホテルなどがあります。特に実家や知人宅であれば、愛犬も顔なじみや仲の良い相手がいる場合もあるため安心です。
最初は短時間から始め、買い物のついでに預けてみるなど、徐々に預ける時間を伸ばして慣らしていくと良いでしょう。どうしても預け先が見つからない場合は、ペットシッターの利用も検討してみてください。
気軽に相談できる犬仲間や獣医師の存在
一人で抱え込まず、気軽に相談できる人がいると心強いものです。特に高齢犬の介護は、経験者に相談できると、客観的で的確なアドバイスがもらえるため安心です。
普段から犬仲間を作っておくと、さまざまなアドバイスをもらえたり、相談相手ができたりと心の支えになります。また、行きつけの信頼できる獣医師も頼れる存在として大切です。
信頼できる人や施設に頼り、すべてを一人で抱え込まないようにすることが、飼い主と愛犬の快適な生活につながります。
愛犬の健康寿命を考える
近年は獣医療の考え方が変化してきている
動物の問題行動の原因にストレスが関与していることはよく知られていますが、最近の研究では、身体の疾患が行動の変化として現れることもわかってきています。たとえば、皮膚炎やアレルギー、痛みやかゆみなどの症状が、精神的なストレスを和らげることで改善されるケースがあるそうです。また、頻繁に見られる行動の変化が脳の疾患の兆候であることもあります。
現代社会では、人も犬も多くのストレスにさらされています。散歩や運動の不足、飼育環境、飼い主との関係、肉体的な痛みや病気、不安や孤独など、ストレスの原因はさまざまです。
心と体は互いに影響を与え合い、身体の病気か精神的な問題か、その境界ははっきりしません。場合によっては、心身両方の問題が併発していることもあります。言葉を話せない犬の診断はとても難しいため、特に慎重な観察が求められます。
高齢犬の健康を維持するために
筋力や脳機能を維持することを生活の中でも意識的に取り入れ気をつけましょう
高齢になると、「そっとしておこう」と気を遣いすぎるあまり、かえって足腰を弱らせてしまうことがあります。動かない生活が続くと、脳も使わなくなり、脳機能の低下につながることもあります。
足腰の筋力を維持し、適度に脳へ刺激を与えるためにも、できるだけ毎日の散歩を心がけ、外の世界に触れさせましょう。新鮮な空気と日光浴は生き物にとって大切な要素です。
特に高齢犬は数日散歩を休むと筋力が衰え、その回復が難しくなります。散歩は筋力維持だけでなく、脳への良い刺激にもなります。家の中だけの生活では変化に乏しく、刺激が少ない日々になりがちです。
外に出て風を感じ、草木の香りに触れたり、人や他の犬と出会うことで、五感を刺激し、心身ともに活力を与えてあげましょう。
犬がひとりで過ごす時間も大切
飼い主との楽しい散歩は、食事と同じくらい犬にとって大切で幸せな時間です。しかし、四六時中飼い主と一緒にいると、留守番が苦手な犬になってしまうこともあります。
愛犬の「一緒にいたい」という気持ちに応えたい気持ちはわかりますが、時にはその思いに応えられない場面もあるでしょう。そのため、適度な時間をハウスやゲージで過ごさせ、一人でいることに慣れさせておくことが大切です。
愛犬が安心してひとりの時間を過ごせるよう、メリハリのある生活を心がけましょう。
愛犬の病気を見逃さないために
主治医は飼い主です 「早期発見・早期治療」変化を見逃さないように
日頃からこまめにブラッシングをし、全身を丁寧に触ることで、小さな体の変化にも気づけるようになります。例えば、皮膚に炎症やできものがあったり、いつもと違う匂いがしたり、特定の場所を触ると痛がる場合など、異変を見逃さないようにしましょう。
飼い主の観察力が、愛犬の健康管理に大いに役立ちます。目の輝き、歩き方、座り方、腹部の膨らみやしこりなど、日々触れ合うことで気づける小さな変化も多いものです。
また、定期的に同じ病院で健康診断を受け、現在の健康状態を把握しておくことも重要です。定期検診により健康を維持し、病気の早期発見に役立てましょう。同じ病院で診てもらうことで、過去のデータと比較しやすく、測定値の変化もわかりやすくなります。
犬の成長や老化は人に比べて数倍のスピードで進むため、最低でも年1回の健康診断を心がけましょう。後期高齢期に入ったら、年に2回の検診も検討すると安心です。
愛犬の病気や異常の早期発見のポイント
- 口臭
- 歯石が溜まっていると匂うようになります、放置すると歯肉炎・歯周病に進行して治療が困難になります。毎日の歯磨きを習慣にして予防しましょう。
- 涙やけ・目やに
- 目と鼻をつなぐ鼻涙管のつまり、ゴミやまつ毛が入ったなどの刺激、アレルギー、水分不足が原因になっているこもあります。
- 目の曇り
- 水晶体が白く濁っていないか、斑点などないか、色が変色していないかを確認をしましょう。
- 歩き方が不自然・つま先の異常
- 足を引きずる、足先を舐める、痛がるなど不自然な歩き方の場合は、ケガや骨折、関節炎、神経の炎症、皮膚炎、腫瘍など考えられます。
- フケ・皮膚の乾燥
- 高齢になって代謝機能が低下すると、フケが多くなって皮膚がカサカサしてきます、ツメダニ症や皮膚糸状菌、アトピー、脂漏症などの病気になっていることもあります。かゆみ・脱毛の有無も調べましょう。
- しこり・腫れ
- 被毛で覆われている犬の異常は全身をくまなく触って確認しましょう、しこりや腫れ、むくみに関節に痛みや動きは正常かを調べます。
笑顔が健康と幸せの鍵
犬はリーダーである飼い主の喜ぶ姿や笑顔を見るのが大好きです。常に飼い主の行動をチェックして、まるで何でもお見通しのようです。中には飼い主の表情を真似て笑顔を作る犬もいるほどです。
愛犬の笑顔を見て飼い主も笑顔になり、お互いに幸せなひとときが生まれます。この相互作用は、犬と飼い主に良い影響をもたらし、相乗効果があるのです。
犬は飼い主の感情を敏感に感じ取ります。鼻の優れた犬は、飼い主の体から発される化学物質を嗅ぎ分け、飼い主の感情を読み取り、同じ気持ちになることもあるといわれています。
特に社会性の高い犬は、飼い主の行動をよく観察し、人との暮らしの中でどう反応すれば良いかを学んでいます。長く一緒にいるほど、飼い主の動きや雰囲気を読み取り、それに合わせて自分の行動を考えるようになるのです。
そのため、飼い主が穏やかで笑顔で接すれば、愛犬もリラックスして穏やかな気持ちでいられるでしょう。反対に、飼い主がイライラしていると、愛犬は神経質になり、不安げな性格になってしまうこともあります。
愛犬が健康で長生きするためにも、お互いが笑顔でいられることが大切です。
まとめ
現代では、人も犬も長寿の時代です。愛犬には一日でも長く、自分の足で歩き続けてほしいものです。足腰が丈夫でいることはもちろん、心身ともに健康であることが、長生きには欠かせません。
完全にストレスのない生活は難しいかもしれませんが、できるだけストレスを感じずに過ごせるよう、接し方や環境を整えてあげましょう。
飼い主も愛犬も健康で長生きするために、何よりも大切なのは「笑顔」です。お互いが笑顔でいられる時間を大切に、健やかな毎日を過ごしていきましょう。
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